私は理容師なので専門は男性のカットです。しかし仕事を進めていく中で女性のカットも勉強していかないと仕事の幅が広がらないと言う事に気づき、8年ほど前に女性のカットの勉強を始めた頃の事です。
まず美容師の友人Mちゃんから、日本の美容業界のバイブル書と言われる美容室ピークアブーの川島文夫さんの本で基本中の基本の二冊を頂きました。その古い二冊の本はもう廃盤になっているので、Mちゃんは私のためにわざわざネットで探してくれたのです。そして私に、
この本は基本の基本で何回見てもその時その時で気づきがあるの。細かく記載されていてしかも左右どちらからもカットの仕方が書いてあるの。カットに迷う事は誰でも何回でもあるから、私も同じ本を持っているんだけど、悩んだ時にいつも見ているんだけど本当にその時その時でいろんな発見があるの、すごい本なのよ、さっちゃんもこれで勉強してみてね、と。
それからもう一人の美容師のSさんには美容業界で発行している、初心者の美容師が営業で使える、これまた基本の基本の月刊誌を一年分借りました。こちらは自分で勉強したいところだけをコピーを取って自分オリジナルのファイルを作りました。
これらの本やファイルを私は何度も何度も見直して、わからないところは友人の美容師さんに聞いたり、実際にカットの様子を見せてもらったり、逆に私のカットの様子を見てもらったりして女性のカットの仕方を身に付けていきました。
そうしてやっと形になってきてお客様に実際に施術するようになってきた頃の事。
セミロングのお客様を担当する時がありました。その方は、
今から親の介護のために仙台に行かなきゃならないからバッサリと短くショートカットにして下さい、といいました。
私は内心、うわー長い(^_^;)しかもこれまで長い髪を束ねていたクセもついているし髪の量も多くてうまくまとまるかな、、、と、心配しました。
その方は、仙台へ引っ越しをして介護に専念するらしく、バッサリと髪を切る事は決意を固めるためであったかのように私には思えました。
私も思いきって短く切らせて頂きました。思った通り縛ったクセがあって私がイメージしていたスタイルにはなかなかならず苦戦して、時間もかかってしまいました。しかしその方は、
丁寧にカットして頂いてありがとうございました、と私にチップとして1000円札を差し出したのです。私は驚きました。と同時に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
私が時間がかかってしまったうえに、まとまっているとはいいずらいスタイルになってしまったのに、チップを頂くなんてとてもできないと思いました。しかしその方はどうぞどうぞと私に1000円札を渡されました。
私は申し訳ない気持ちでいっぱいでしたが、差し出されたそのお金を最後には受け取りました。そして他のスタッフに話すと、その方は満足したんだからありがたく頂いていいんだよ、と言ってくれました。
私はこのお金は使えないと思いました。自分が納得できるような技術が身に付いた時に、スタッフ皆のお茶菓子を買おうと決め、それまでは大切にしまっておこうとその時思いました。
あれから、もう8年かー。
先日片付けをしていたら、テーブルのディスクマットにはさんであった1000円札を見つけました。すっかり忘れていましたが、今思うとそのお金は1000円以上の価値があり、自分が仕事を続けていく上で、初心を思い出させてくれる大切なお守りになっているのだと、改めて感じました。私はいろんな方々に育てて頂いて今があります。本当に感謝です。この感謝の気持ちと初心をいつまでも忘れない自分でいたいです。